昼の顔・夜の顔・ホントの顔♪
クラブ時代~vol.6ナオミについてナオミは金髪にドレッドに近いソバージュ。ゼブラ模様のスーツを着て、開店から閉店まで同じ席にいるような子だった。ミホが1日10本指名をとって、5分ごとにせわしなく動き回る様を、たばこをふかして横目でみていた。彼女にとって接客の心というものは、長い時間一緒にいても、お客さんが帰りたくなくなるくらい、楽しませることであるようだった。正直言って、彼女に最初に会った時(彼女は私よりも後に入店した)この娘は「ベルサーチ軍団」入りだろうな。と思っていた。髪も化粧も服装もアクセサリーもド派手で、統一性というものがなかった。往々にしてそうであるように、そういうカンジの娘は、自分自身にも統一性なんてもっていないように感じられたからである。「あたし、九州の出身でえ、中学出てからガソリンスタンドで働いてたんっす けどお、友達がこっちでバイトするって言うんでえ、思い切ってついてきたん すよお。もう別れちゃいましたけどお。」中学の頃、シンナーをやっていたらしい彼女の歯は、笑うとみそっぱがこぼれ、彼女を必要以上に馬鹿に見せたが、決して感じの悪い微笑みではなかった。なんというか、ミホとは違って、最初からこちらを信用しきっているような人なつっこさがあったからなのだと思う。「りえ姉さんは、オーエルさんしてたんっすよねえ。コンピューターとかも 触ったりできるんすか?痴漢とかって大丈夫でした?なんで、今こんなこと やってるんすか?ああやっぱ金っすよねえ。オーエルさんじゃやってらんない っすよねえ。」彼女はおしゃべりで明るく、義理人情に厚かったので、私は自分のお客さんがお友達をたくさん連れてきた時など、彼女を紹介指名で呼んでいた。上品な娘ではないけれど、気遣い上手で気風が良くて、お客さんのどうでもいいようなところまで巧みに誉めるので、場の雰囲気がなごみ、評判は上々だった。同じ席に付いていることが多くなってきたミホは、自分が中心にならないのがおもしろくなかったらしく、指名が重なって席を移動する時に、彼女に対して「通れないからどいて!」とつんけんした態度をとり、皆んなが唖然としている中、かかとをカツカツさせて立ち去ったりした。彼女に夢中なお客さんは、頭を掻きながら「俺が怒らせちゃったみたいなんだ。悪いな。」なんて庇っている。彼女の幼稚なやり方には問題があると思ったので、店が引けた後、「お客さんの前でああいうことをしちゃダメだよ。忙しいのは皆んなわかって るけどね。」と注意をした。「あたし、ナオミって嫌い。ああいうケバい人とりえちゃんが仲良くするとは 思わなかった。紹介指名入れてあげたって、きっと何にも返ってこないよ。 人気ないじゃん。りえちゃんも、ちょっと考えた方がいいんじゃないの?」と吐き捨てるように言うと、「これからアフターだから、また明日。」と言ってさっさと店を後にした。確かに、こっちもこれでメシ食っている。売れそうにない娘の面倒を買って出るより、人気の出そうな女の子を手なずけた方が、自分の指名数も増えて、時給もバックも大きく変わってくる。でもそればかりを意識していたら、高い金を払っている男たちは皆んな馬鹿ではない。「高いだけでつまらない店」ってことで通って来なくなるのではなかろうか?ミホは男イコールセックスに漕ぎ着けるために高い金を払ってせっせと店に通うだけの動物。と考えていたようだけど、そんな人間ばかりではないことを、私もナオミも信じたかった。ナオミは「メロドラマみたいな話で誰も信じちゃくれないかもしれないっすけど…」子供の頃、父親が焼酎ビンを片手に母親と自分ともっと小さい弟に、死ぬ寸前ぐらいの暴力をふるっていたという。母親の稼ぎも全部持ち出されて、ナオミは新聞配達のバイトをし、母親に注意するように言っていたのにも拘わらず、その金も持ち出されて、母親に死のうと持ちかけられたことがあるという。「ひとりで死ねって言ってやったんすよ。あの女は、泣くばかりで、何にもしな いんっすよ。父親が暴力ふるいたくなるのも分かるくらいウザい女だったんっ す」彼女は、父親のことも当然憎んでいたが、自分は男に暴力などふるわれないかわいい女になろうと思ったそうだ。彼女は1人のお客にのめり込んでは捨てられて…ということを繰り返していたけれどクサクサしたしたところがないのが立派だった。男と別れると、自分に努力か魅力が足りなかったのだと笑った。この娘はきっとこれから先も苦労するだろうな。と思っていた矢先彼女は今度こそという思いを胸に、男と暮らすために店を辞めていった。「はあ、せいせいした。」とミホは言った。